どうぶつたちの病院沖縄について

ヤンバルクイナの育児 奮闘中!

2012年5月28日 16:38

今年も繁殖施設ではヤンバルクイナのヒナが生まれました!
なんと今年は、3月から5月にかけて20羽(5月25日現在)のヒナが誕生しました。
「自然ふ化」が7羽、「人工ふ化」が13羽という内訳です。

「自然ふ化」、「人工ふ化」と聞いても、ピンと来ないかもしれません。

「自然ふ化」とは、飼育係がオスとメスをお見合いさせて、そのペアが野生状態と同じように巣を作り、産卵、抱卵し、卵をふ化させることを言います。また、親が育てることを自然育雛(いくすう)といい、自然孵化・自然育雛をあわせて自然繁殖と呼んでいます。
そして、「人工ふ化」とは、人が卵をふ卵器という機械に入れて温め、卵をかえすことを指します。卵の時から人が親代わりをするのです。そして、孵化したヒナを人工的に育て上げることを「人工育雛(いくすう)」といいます。

2007年にも自然ふ化に成功していますが、その時の親は人工ふ化し、人工育雛で得られた比較的人に慣れたヤンバルクイナのペアでした。今回繁殖に成功したペアは、元々野生の鳥だったので人と環境に慣れるのが大変で、繁殖が成功するまでには数年かかりました。ヒナで救護されたり人工ふ化で育った個体とは異なり、野生由来の個体は人になつかずとても神経質で、繁殖までこぎつけることは難しいとされていました。

ヤンバルクイナの人工ふ化

一方で、「人工ふ化」は、卵が緊急保護されることから始まります。
ヤンバルクイナは、草地に巣を作りますが、森林に隣接した農耕地や道路際など人の生活圏とも重なっているところでも繁殖をすることがあります。農耕地や牧草地での草刈作業時に親が逃げたり、巣が壊されてしまったり、その後の抱卵の継続ができないと判断された場合、卵の緊急保護が行われるのです。
今年は3巣が発見され、発見者からすぐに連絡をうけたおかげで卵は助かりました。
ヤンバルクイナのヒナはかわいいですが、やっぱりヤンバルクイナはヤンバルクイナの両親の愛情を受けて、やんばるの森で育ってほしい。だから大切なことは、救護される卵がないようにしたい、つまり、救護しなければならない状況を作らないようにすることが重要なのです。ヤンバルクイナの繁殖(巣作り)は毎年3月頃から始まります。ヤンバルクイナの巣作りが行われそうな場所での草刈作業の時期と草の刈り方の工夫をすることで、人の暮らしとヤンバルクイナの繁殖を見守ることの両立を図ることができれば、ヤンバルクイナは抱卵を中断しなくて済むことになります。 人と野生動物との共生には、「配慮」と「適度な"棲み分け"」が重要な要素だと思います。
ヤンバルクイナのヒナは、生まれて10日くらいは真っ黒でほわほわの綿毛に覆われていて、いわゆる「まっくろくろすけ」です。
この頃は特に、かわいい盛りです。

ヤンバルクイナのヒナ

この時期のヒナはとてもデリケートで、ちょっとした変化で体調を崩しやすく時には命取りになることさえあるのです。ヒナの様子をしっかり観察し、温度や餌や運動量もしっかり管理していかねばなりません。一方で、人工孵化のヒナは孵卵器の中で生まれ、育雛箱の中で育っていきます。そんなヒナにとって、風の音や草木の揺れる動き・影、自然界には当たり前のものひとつひとつが初めての体験で時には恐怖の対象にさえなってしまいます。そのため、人工育雛では、まだ足元もおぼつかないうちから外に出て自然界を教える「おさんぽタイム」がとっても大切です。おさんぽタイムではヒナとはいえ、そこはヤンバルクイナ、とっても足が速くてジャンプも木登りも上手です! 羽をパタパタさせて楽しそうに遊ぶ姿を見ると、私たちはついつい笑顔になってしまいます。

どうぶつたちの病院沖縄ではこれまでも数多くのヤンバルクイナの卵をふ化し、ヒナを育ててきました。それでも子育ての技術は、到底ヤンバルクイナのお父さん・お母さんの足元にも及びません。野生のヤンバルクイナをもっともっと研究し、やんばるの森の住人として胸を張れるヤンバルクイナを育てられるようにしたい・・・。いつか私たちの培ってきている技術が必要でなくなるぐらい、ヤンバルクイナが森で安心に暮らせるようになる時まで、見習いパパ・ママをがんばります!

「自然ふ化」での誕生は、新聞記事やニュースでも紹介されました。
琉球新報:http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-189218-storytopic-1.html
47NEWS(動画あり):http://www.47news.jp/movie/general_national/post_6539/

【補足】ヤンバルクイナの繁殖は、「環境省ヤンバルクイナ保護増殖事業」の一貫として実施されています。

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